専門家インタビュー:社会保険労務士
子育てしながら働くために。複業クリエイターの保険と労務vol.3
結婚や出産を考え始めると気になってくるのが時間とお金の問題です。フリーランスならばなおさらのこと。
子育てしながら働く時の、制度の活用や注意点について、社会保険労務士の神谷淳先生に伺いました。
専門家プロフィール
神谷淳 Jun Kamiya/社会保険労務士
新卒で金融機関に入社、不動産管理会社へ出向。退職後に社会保険労務士試験合格。中小企業で卸の営業を経験後、社労士法人に勤務。2017年に「社会保険労務士 神谷事務所」として独立開業。
目次
出産で収入ダウン。「扶養」を考える収入ラインは?
個人事業主だと、出産や子育てで所得が大幅にダウンすることもあると思います。
その場合、配偶者の扶養に入る選択肢も出てきそうです。扶養に入るかどうかの線引きは、どのように考えたらいいですか。
まず、扶養には税務上の扶養と、健康保険上の扶養の2種類があります。
収入が103万円以下ならば税務上の扶養に、収入が130万円以下なら健康保険上の扶養に入れます。
年間の収入が150万円、200万円くらいだと、扶養に入れる程度に仕事をセーブした方が、お金の面では有利です。
中途半端に所得があるよりは、抑えた方がいいんですね。
抑える時に注意しないといけないのが起算日です。
税務上の扶養の起算日は前年の1月から12月で計算しますが、健康保険は扶養になる月から1年間の予測で考えます。
また、単月の売上として200万円入ってきたら、本来は1ヶ月、扶養から外れないといけないんですよ。
そのときだけ外れるんですか?また売上が下がったら、もう一度手続きし直すのでしょうか…。
フリーのクリエイターは売上の波が大きいので、そういうことも十分ありそうです。しかもそれを、その都度配偶者の会社に申告して、手続きしてもらう必要があるんですよね。扶養入るのも大変ですね…。
パートタイムの社員は会社にもメリットが
会社員だと、子どもが小さい頃は時短で働く選択をする人が多いと思います。
でも、実は時短といいながら割り当てられる業務の難易度や量が変わらない、という話をよく聞きます。
そこは会社の課題ですね。おそらく会社も、「短い時間でたくさんやってもらって得した!」と思っているわけではないと思います。どうしたらうまくいくか、探っている状態だと思います。
わたしも今、週3回という形で会社で働いていますが、対価と与えられているタスクが適正なのか、誰にも分からないですものね。疑問があれば、その都度会社と話し合うしかないですね。
私のように、週3回だけ働くような社員を雇う場合、会社側のメリットってあるんですか。
優秀な人材を確保できる可能性が高まるのは、大きなメリットだと思います。
他の仕事や子育て、介護などがあるから長時間は働けないけれど、専門技術や経験のある人も多いと思うんです。
あとは女性で多いのが、出産や子育てで仕事をやめてしまった人ですね。
勤務時間数だけでなく、どこで働くか、どの時間帯で働くかといった自由度を高くすると、条件が合わずに埋もれていた優秀な人たちが働いてくれるようになりますよね。
わたし自身、自由な働き方をしたい気持ちが強いので、今のお話はとても嬉しいですね。
場所や時間にとらわれない働き方をしたい人が、周りにも増えてきているのを感じています。
特に女性は調整しなくてはいけないことが多いので、そういう働き方が増えるのはいいなと思いますね。
そういう会社が増えれば、女性だけでなく、男性も働きやすくなりそうです。
充実する男性の育休制度。活用は道半ば
ここまで女性クリエイターの目線でお話を聞いてきましたが、最近は男性が育児休暇を取るケースが増えてきていますよね。
一方で「うちの会社は男性は育休を取れない」という人もいますね。
そう思っている男性はけっこういますが、育児・介護休業法があるので、実際には要件を満たせばどこの企業でも取得することができます。
男性が育児休暇を申請した場合、会社側には断れないということですか。
そうですね。ただ、時期や期間については話し合いが必須だと思います。
ルールとしては取得できる権利があるけれど、キャリアへの影響が心配で取得に踏み切れないこともありそうですね。
そうですね。会社側も、実際に男性が育休を取ることを想定していない会社もあると思います。欠員補充はどうするかなど、いろんな課題がありますからね。
今、大企業には男性の育児休業の周知義務があります。また、2022年からは、男性の出産後休暇制度も施行されます。国の方向性としては、男性の育児参加を進めていく流れにあるんです。
今はまだ育休や時短のことを考えるのは女性が中心ですが、夫婦で力を合わせて育児をしていく方向に変わってきているんですね。
※本記事アップ時点での内容となります。法律や手続き方法、名称などは変更されている可能性があります。