専門家インタビュー:税理士
やった方が得?それともやらなくてもいい?目からウロコのインボイス制度解説vol.1
2021年10月から、「インボイス制度」がWebや動画サイトなどで盛んに取り上げられるようになりました。
どうやら2023年10月から制度が始まるそうです。
とはいえ、「自分はフリーランスの個人事業主で、消費税を納めなくてもいい免税事業者だから、関係ないや」と思っている方、いませんか?
本当にこのままスルーしてていいのでしょうか。税理士の吉岡俊哉先生にお話を伺いました。
専門家プロフィール
吉岡俊哉 Shunya Yoshioka/税理士
新卒でコンサルティング会社・税理士法人へ入社し、中小企業の税務顧問・事業継承案件・相続案件を中心に従事。メガバンクに出向後、2013年に税理士登録。2017年に独立し、税理士法人THREE設立。
目次
まずは、仕入税額控除を知っておこう
個人事業主であるクリエイターの立場として、率直にお聞きしたくて来ました。
インボイス制度に乗っかった方がいいのか、それともやらなくてもいいのか、判断するための材料になるお話をぜひ聞かせてください。
まずお伝えしておきたいのは個人事業主の中でも免税事業者にとって影響が大きいということです。
SHOOTEST Journalの読者にも免税事業者の方もいらっしゃると思いますので、免税事業者の方を中心に説明します。
インボイス制度を理解するために、まずは消費税の仕組みを理解しましょう。
消費税を支払う義務があるのは、簡単に言うと2期前の課税売上高が1,000万円を超えた課税事業者です。
はい。僕は今、消費税を払っている課税事業者ですが、年によっては課税売上高が1,000万円を切ることもあるので、免税事業者と課税事業者を行き来しているのが現状です。
それでは、課税事業者であるWebサイト制作者のAさんが100万円の仕事を受注し、100万に10万円の消費税を載せて請求書を出し、110万円を受け取ったとします。
そしてWebサイトの制作に必要なプログラミングをBさんに40万円で発注し、4万円の消費税を載せて44万円を支払いました。
つまりAさんは100万円に対して10万円の消費税を預かり、4万円の消費税をBさんに支払ったので、差し引き6万円を確定申告の際に国に納めることになります。
4万円を差し引くことを仕入税額控除といいます。
仕入税額控除の「仕入」ってどういう意味ですか。僕は在庫を持たないビジネスなので、何も仕入れていないです。
だから仕入税額控除の対象になるものはない、と思っていたのですが。
仕入という言葉になっていますが、経費だと考えてください。
人件費、給与、保険料など消費税のかからない費用を除いた、消費税のかかる経費がそれにあたります。
何も仕入れてない!って思ってましたが(笑)、そういうことでしたか。ようやく分かりました。
インボイス制度に乗らないと、仕事がもらえなくなる!?
先ほどの話に戻ります。
現状では、Bさんが免税事業者だったとしても、Aさんは4万円を仕入税額控除することができます。
ところが、インボイス制度が始まってもBさんがインボイス制度に乗らず、免税事業者のままだった場合、Aさんは4万円を仕入税額控除できなくなります。
つまり、Aさんは現状だと差し引き6万円の消費税を国に納めれば良かったのが、10万円を納めなければならなくなる、と?
その通りです。
ただし、Bさんがインボイス制度に則って、適格請求書(以下、インボイス)を発行できる事業者として登録し、課税事業者になっていれば、Aさんは従来通り4万円を仕入税額控除できます。
BさんがAさんに対し、消費税額が4万円であることを明記したインボイスを発行できるからです。
Aさんの立場で考えてみましょう。Bさんがインボイス制度に登録していなければ、Aさんは4万円多く消費税を納めることになり、その分利益が減ります。
そうなると、Bさんではなく、制度に登録しインボイスを発行できるCさんに仕事を発注したいと思いませんか?
当然、そうなりますよね。
つまりインボイス制度に登録しない免税事業者は、「弊社は今後、インボイスを発行できる方のみと取引させていただくことにしました」と、取引を打ち切られてしまう可能性が出てくるのです。
インボイス制度に乗っからないと今後仕事をもらえない可能性が出てくるということですか!
それって、制度に乗っかった方が得?損?というレベルの問題ではなく、インボイス制度に乗るしかないじゃないですか!
はい、登録せずに取引を止められたらどうしようもないですからね。
ただし経過措置というものがあって、令和11年9月末までの6年間は、課税事業者が免税事業者等から課税仕入れを行った場合でも、一定の割合について仕入税額控除をすることができます。
インボイス制度は人間関係にも影響する?
では、僕がAさんで、Bさんに仕事を発注するとします。Bさんがインボイス制度に登録しているかどうかは、本人に聞くしかないのでしょうか。
「あなたは登録していますか? インボイスを発行できますか?」と。
登録すると、国から個別の登録番号が発行されます。
インボイスには登録番号を書く欄があるので、番号があるということはインボイスの登録事業者であるということになります。
でも、仕事を発注する前に「登録していますか?」とはなかなか聞きにくいですね。人間関係にも影響しそうです。
クライアントが個人ではなく企業の場合は、先方から「インボイスを発行してくださいね」と求められたら、こちらは仕事を失いたくないから登録しますけど、フリーランス同士の「ちょっと手伝ってよ」レベルの時は、結構面倒ですね。
相手がインボイスを発行できると思って仕事を依頼したのに、蓋を開けてみたら「あれ? 仕入税額控除できない!?」ということも起きてくると思います。
その場合、泣き寝入りするしかないですか?
消費税10万円すべて納税することになります。
ただ、差額の4万円は経費として扱うことができます。経費が増えれば利益が減るので所得税や住民税は減りますが、4万円に税率をかけたものが減るだけなので、仕入税額控除で4万円まるまる少なくなる方がいいですよね。
それに見た目の利益が減ると、取引先に出す決算書の見栄えも悪くなってしまいますから。
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次回は2/9(水)に公開予定です。インボイス制度がなぜ導入されるのか、フリーランスのクリエイターと密接に関係がある、国の“真の狙い”について引き続き税理士の吉岡俊哉さんにお話を伺いました。続きをお楽しみに。
※本記事アップ時点での内容となります。法律や手続き方法、名称などは変更されている可能性があります。