専門家インタビュー:社会保険労務士
安心してものづくりを続けるために、これだけは知っておきたい保険・年金の基礎知識vol.1
フリーランスになると毎月支払うことになる「国民健康保険料」と「国民年金保険料」。言われるままに支払っているけれど、よくわからない、手数料が高い、できれば払いたくない…そんな思いを抱えながら、表向きはなんでもない風を装っているクリエイターも、実は多いのでは?
普段なかなか聞けない保険の基礎知識について、社会保険労務士(社労士)の神谷淳さんにお話を伺いました。
専門家プロフィール
神谷淳 Jun Kamiya/社会保険労務士
新卒で金融機関に入社、不動産管理会社へ出向。退職後に社会保険労務士試験合格。中小企業で卸の営業を経験後、社労士法人に勤務。2017年に「社会保険労務士 神谷事務所」として独立開業。
目次
そもそも、「保険」って何ですか?
今日は、フリーランスの僕らが知っておいたほうがいい保険のことについて、いろいろ教えてください。
実は保険とか年金ってよくわからないところがあるんです。保険料は払っているし、保険証を持って病院に行くと治療費が安くなることはわかるんですが。そもそも「保険」とは何か、というところから知りたいです。
すごく簡単に言ってしまうと、みんなでお金を出し合って、生活上起きる危機的な状況をカバーし合う仕組みです。病気やケガでかかる医療費は「健康保険」、配偶者が亡くなった時、障害を負った時や老後の生活にかかる費用は「年金」によってカバーされます。
日本は、世界でも珍しい「国民皆保険制度」をとっています。全員加入するのが義務になっているんです。これがあるおかげで、日本国民なら誰でも、日本全国にあるどの病院でも同じ費用で医療が受けられますし、65歳以上になれば、一定額の年金が受給できます。
「国民健康保険」と「社会保険」は、どう違うんですか。
企業勤めで一定の加入要件を満たす方は、国の運営する健康保険協会か各企業が単独または共同でつくっている「健康保険組合」に加入します。これが「社会保険」です。社会保険の保険料は、企業と個人が折半して支払っています。社会保険に入っていない人は、国が運営する「国民健康保険」に加入することになります。
要は、お金を出し合ってカバーしあう母集団が「会社」か「国」かの違いなんですね。
フリーランスになったらすぐに手続きを
「会社員だったんだけど、個人事業主として独立した」という時に、どんな手続きが必要ですか?
会社員からの転職の場合、2つの選択肢があります。新規に国民健康保険に加入するか、それまで入っていた社会保険を「任意継続」(最長2年間)するかの2択になります。
継続できるならば、その方がお得なんですか。
社会保険の方が保険料自体が安いことが多いですが、場合によって違うので、保険料の確認をした方がいいですね。
社会保険は任意継続になった時に、それまで会社が折半してくれていた分を自分で払うことになります。国民健康保険は前年度の収入をもとに保険料を算出します。また、お子さんや配偶者などの被扶養者がいる場合はちょっと注意が必要で、国民健康保険に切り替えると新たに人数分加入することになります。
そういった点を加味して2つを比べてみて、保険料が安くなる方にすればいいと思います。支払う保険料が多くても少なくても、受けられるサービスには大きく変わりはないので、そこは安心してください。
社会保険については勤めていた会社に聞けばいいですよね。国民健康保険の方は、どこで聞いたらいいですか?
住んでいる市町村に「国民健康保険課」や「年金課」があるので、まずはそこへ問い合わせてみてください。
また、社会保険を継続する場合は、退職後20日以内に手続きをしないといけないので注意してください。できるだけ早めに問い合わせたほうがいいですね。
もし、そのまま加入しないでいたらどうなる?
正直なところ、保険料ってけっこう高いですし、手続きに時間を取られるのも独立初期にはつらいです。ぶっちゃけ、そのまま何の保険にも加入しないでいたらどうなりますか?
追いかけられます。最悪、銀行口座の差し押さえということもあり得ます。全員が保険料を払うという前提で国全体の仕組みが回っているので、シビアなんですよ。
そうなんですね…。とはいえ、お金がなければ払えないですよね?どうしたらいいんですか。
年金については免除申請ができます。申請もなにもしないでそのままスルーしていると、延滞金が発生します。健康保険の方は、原則は免除こそありませんが、もし支払いが難しいという場合は担当課に相談すれば、「それならばこういうプランでいつまでに支払ってください」と無理のない支払いプランを一緒に考えてくれます。正直、心証もだいぶ違うので、とにかくまずは電話してみてください。
バレないだろうと思ってスルーしててもあきらめてくれない、と。相談もできるから、とにかく逃げずに手続きした方がいいということですね。
そうですね。それに、フリーランスは自分自身が資本ですから、万が一の時のためにしっかり備えて、安心して仕事に集中できる環境をつくった方がいいですよね。
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次回は6/18(金)公開予定です。病気や怪我、高齢化など、人生の危機を支えてくれる保険制度。保険料を抑える方法や、もしもの際の手続きについて、引き続き社会保険労務士(社労士)の神谷淳さんにお話を伺いました。続きをお楽しみに。
※本記事アップ時点での内容となります。法律や手続き方法、名称などは変更されている可能性があります。