専門家インタビュー:弁護士
「参照」と「パクリ」の境界を考える。クリエイターが知っておくべき著作権の基礎知識vol.3
クリエイターにとって、著作権は自分の制作したものを守るために知っておきたい基礎知識ですが、同時に、意図せず相手の著作権を侵害しないためにも知っておきたいものです。
どこからがパクリ、いわゆる「パクリ」になるのか、弁護士の河野冬樹先生に著作権の歴史も紐解いてもらいます。
専門家プロフィール
河野冬樹 Fuyuki Kawano/弁護士
本好きが高じて学生時代より出版関係に関わった経験を持ち、著作権関連法務、個人事業主向け法務が専門。「出る杭のちからになりたい」をキーワードに、創作活動をされる方の支援を行っている。第一東京弁護士会所属。法律事務所アルシエン弁護士。
目次
“パクリ”と“問題なし”の線引きは?
デザインする時、何も参考にせずに作ることって基本的にないと思うんです。
クライアントにも参考サイトを提示したり、参考事例を並べたりします。どこからが著作権の侵害、平たくいってしまうと「パクリ」になるんでしょうか。
まさにそれが難しいところなんです。
何の影響も受けていないものはこの世の中に存在しないので、一体どこからがパクリになるのかと。パクリになってはいけないと思うあまり萎縮しすぎてもいけないですし。この議論はかなり難しい面がありますね。
プレゼン資料で使うのもダメなら、もう資料を作れなくなってしまいます。
最初に問題となるのが、パクリ元が著作権の対象であるか、という点です。
ロゴデザインなら著作権の対象になるのは間違いないですが、全く創意工夫なく、ただ機械的に撮った写真だと、そもそも著作権がないわけです。なので、いくらコピーしたとしても著作権侵害にはなりません。
機械的に撮った写真というと、何も考えずに今、カメラを手に持って、シャッターを切った写真のようなものですか?
そうですね。でも、構図を考え、どの角度から撮ったらいいかを考えると、そこに創意工夫があるので、創作性が発生するんです。
ネットの上の写真、勝手に使って大丈夫?
著作権って思った以上に線引きが難しいんですね。
ところで、昨今、技術の進歩で、昔よりも複製が簡単にできる様になってますよね。昔とは状況が違うと思うのですが、そのあたりで法律が改正されたりということはあるんでしょうか。
著作権の歴史をさかのぼると、そもそもは活版印刷ができて初めて成り立った権利だと言われています。
なぜなら、活版印刷がない時代にはコピーができない、書き写そうと思ってもそのまま書き写すのはとても大変です。
同じように、音楽も写真も、映像も、複製する技術が出てきた後に、コピーはダメですよ、という複製権が出てきました。英語ではコピーライトといいますね。そこから権利が拡張されて、著作権というものに広がっていったんです。
歴史をさかのぼると、ものすごく納得できますね。
ちなみに、ネット上にある画像をダウンロードしたりSNSに投稿するのって当たり前すぎて、ダメと言ってもね、と考える人もいるようですが、それについてはどう思われますか?
日本の著作権法では「自由に使っていいよ」と言う範囲がすごく限定されています。
なので、意味もないのに著作権法に縛られて使えない、という不満は理解できます。かといって、すべてを無断で使っていいのかというとそれも違うだろう、と。
自由に使える部分を広げることと、侵害されないように保護すること、このバランスが難しいですね。
著作権と商標の違い
最後に著作権と商標の違いがよくわからないので、教えてもらえますか。
まず、著作権には登録が要りません。もちろん登録することはできますが、しなくても権利として発生します。一番保護の対象になりやすいものです。
商標は著作権と近いですが、商標は商いの印なので、「この製品はうちが出しているものです」と、他と区別をつけるために出しているものです。
例えば、著作権の対象にはならないような短い言葉だったりサービス名でも、商標登録をすることによって、守られることがあります。
これに対して、意匠権はデザインを保護するための権利ですよね。
はい。なぜ意匠権があるかと言うと、実用品のデザインは、使いやすさを突き詰めた結果生まれたもので、著作権とは違う次元の話だからです。
なので、著作権で保護されにくい部分を守るために生まれたものですね。
ちなみに、著作権法違反は親告罪ですが、刑事告訴もできますか?
告訴は可能ですが、実際に警察が捜査するかというと、その対象になるのは、海賊版を出すなどで企業の利益を大きく侵害して自分が利益を得たなどの限られた場合が多いですね。
基本的なところから教えていただいてありがとうございました。自分の著作権を守り、相手の著作権を侵害しないよう、お聞きした話をこれからに生かしていきます!
※本記事アップ時点での内容となります。法律や手続き方法、名称などは変更されている可能性があります。