専門家インタビュー:社会保険労務士
保険制度や生活保障が気になる。複業クリエイターの保険と労務vol.1
週3〜4回は会社員として働き、残りの日はフリーランスのクリエイターとして働くーー。
そんな働き方が、今、注目されつつあります。
複業の場合、社会保険はどうなるのでしょうか。また、専業の場合とどんな違いがあるのでしょうか。
社会保険労務士の神谷淳先生に伺いました。
専門家プロフィール
神谷淳 Jun Kamiya/社会保険労務士
新卒で金融機関に入社、不動産管理会社へ出向。退職後に社会保険労務士試験合格。中小企業で卸の営業を経験後、社労士法人に勤務。2017年に「社会保険労務士 神谷事務所」として独立開業。
目次
会社員との複業がお得な理由
わたしは今、会社員をしながら個人事業主としても仕事をしています。
一般的に、企業の社員は社会保険、個人事業主は国民健康保険に入りますよね。複業の場合は、両方入る必要があるんですか?
いえ、保険は1人1つです。
雇用されている会社で保険に加入していたら、個人事業主としては手続き不要です。
保険料についてはどうでしょう?
社会保険の金額は収入によって変わりますよね。複業の場合、雇用先からの給料と個人事業主の分を合わせたものになりますか。
この場合、雇用されている分の収入だけで計算します。
個人事業の収入の方が多い場合も、会社員としての収入をベースに保険料が決まるので、ある意味お得だともいえますね。
そうなんですね!勤め先に感謝ですね。
もうひとつお得なことがあるんです。
柴山さんの保険料は、実は会社と折半して支払われています。仮に柴山さんの給料から1万円が保険料として差し引かれていたら、さらに1万円を雇用先が柴山さんの保険料として負担しています。
いずれ年金を受給する時には、会社が負担してくれた分も含めて返ってくるんですよ。
毎月給与から天引きされている金額があることは知っていました。ですが、引かれているどころか、半分を会社が支払ってくれていたんですね。
退職時の失業手当はどうなる?
会社で加入する社会保険には、雇用保険や労災保険も含まれています。
これも会社員との複業をする上でのメリットだといえます。
雇用保険に入っていると、会社をやめた時に失業手当がもらえますよね。
複業の場合はどうなるんですか。
会社を離職したとしても、個人事業主として活動しているのであれば失業手当はもらえないんです。
失業や自己都合での退職によって無職になり、なおかつ求職中であることが、失業手当をもらうための要件になります。
そう考えると、複業の人は、雇用保険の面ではメリットを受け取れないということになりますか。
そうですね。ただ、雇用保険のメリットって、実は他にもあるんですよ。
出産や介護で働けない時には?
雇用保険を払っていると、育児休業給付金がもらえます。
育児休業中には給与がもらえないので、その分の手当ですね。子どもの生後半年までは給与の67%が、生後半年から1年までは50%がもらえます。
育児休業給付金も、複業の場合はもらえませんか。
育児休業給付金に関しては、無収入である必要はありませんので、個人事業の所得を低く押さえれば、ある程度もらえます。
これから結婚や出産を考える可能性もあるので、聞いておいて良かったです。
また、介護で休職する場合も、最大93日間は給与の67%の手当がもらえます。
手厚いですね。
逆に言えば、フリーランス1本の場合はこれらをすべて自分でカバーしないといけないということですね。会社員との複業は、いざというときのメリットが大きいですね。
他にもある、社会保険加入のメリット
労災保険についても教えてください。
会社員として働いている時に起こったことであれば、通勤災害でも、業務中の怪我でも、労災保険が使えます。
しかも労災保険は会社の全額負担なので、従業員に負担はありません。
会社が負担するんですか!知りませんでした。
個人事業主には労災保険はないですよね。
基本的にはありませんが、個人事業主でも、労働事務組合を通して特別加入する制度があります。
クリエイティブ業界でも、カメラマンなど、現場での仕事が多い方は、入っている人が多いですね。
今は、コロナにかかって仕事ができなくなってしまった場合のことも気になります。
社会保険に入っていれば、傷病手当金の申請ができます。
ただ、もちろん会社の方の給与に基づいた申請になるので、気をつけてくださいね。
会社員は本当に手厚いですね。複業クリエイターで、勤めている会社で社会保険に入れるなら、絶対入っておいた方がいいですね。
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次回は9/22(水)公開予定です。会社員としてキャリアをスタートしたけれど、個人としての仕事の依頼が増えてきたーー。そんな流れで開業を考え始めた時に気になるのが、「会社にどう説明するか」。避けては通れない勤め先とのコミュニケーションについて、引き続き社会保険労務士の神谷淳先生に伺いました。続きをお楽しみに。
※本記事アップ時点での内容となります。法律や手続き方法、名称などは変更されている可能性があります。